
この記事を書いた人

髙橋 淳
(たかはし じゅん)
小田原鉱石株式会社 代表取締役
2015年にアスベスト調査・分析を専門とする小田原鉱石を設立し、代表を務める。行政施設、工場、ホテルなど幅広い建物の調査実績を重ねてきた。関連団体セミナーの登壇経験も多数あり、現場に近い分析会社として日々のアスベスト課題解決に取り組んでいる。
「資格を持っている人なら、アスベストの調査はどれでもできるはず」。工事を発注する側は、こう考えがちです。しかし実際は、資格ごとに対応できる対象が決まっています。
建築物の調査者、工作物の調査者、工事の作業を指揮する作業主任者、分析を行う分析調査者。名前が似ていて、違いが分かりにくい資格ばかりです。この記事では、工事の発注や調査の依頼で必要になる範囲に絞って、資格の違いをお伝えします。
この記事でわかること
アスベストの資格が担う3つの役割(調査・工事・分析)
建築物と工作物で、事前調査を行える人の資格・要件がどう違うか
工事の範囲から、どの資格者に調査を頼めばよいかを判断する方法
アスベストの資格は、調査を行う調査者、工事の作業を指揮する作業主任者、分析を行う分析調査者の3つの役割に分かれます。
対象の設備・工事が調査の対象になるかどうか、判断に迷う段階でもまずは小田原鉱石にお問い合わせください。
アスベストの資格は「調査」「工事」「分析」の3つの役割に分かれる
役割ごとの主な資格は、次のとおりです。
役割 | 主な資格・要件 | 何をする人か |
|---|---|---|
調査(事前調査) | 一戸建て等石綿含有建材調査者・一般建築物石綿含有建材調査者・特定建築物石綿含有建材調査者・工作物石綿事前調査者・2023年9月30日以前に日本アスベスト調査診断協会に登録された者 | 建築物・工作物にアスベストが使われているかを、書面と目視で調べる |
工事 | 石綿作業主任者(石綿作業主任者技能講習修了者) | 石綿等を取り扱う作業の現場で、作業方法の決定と労働者の指揮などを行う |
分析 | 分析調査講習の修了考査に合格した者・同等以上と認められる者(日本作業環境測定協会「石綿分析技術評価事業」のA・Bランク認定者・定性分析合格者、日本環境測定分析協会(JEMCA)「建材中のアスベスト定性分析技能試験(技術者対象)」合格者など) | 採取した試料を分析し、アスベストの有無を調べる |

表を数字で言い直すと、役割は3つ、調査の資格は建築物石綿事前調査の資格が4種類、工作物側が1種類です。工事と分析は別の資格で、調査の代わりにはなりません。
調べる対象が建築物か工作物かで、必要な資格が分かれる
事前調査を行える資格は、調査対象が建築物か工作物かによって異なります。そのため、資格を選ぶ際は、まず工事の対象を確認することが重要です。
2026年1月以降、建築物と工作物の事前調査はすべて、有資格者によって行うことが義務付けられました。
工作物の事前調査を行える人は、石綿障害予防規則第3条第4項の規定に基づく厚生労働大臣の告示で決められています。告示は、特定工作物17種のうち10種の調査を工作物石綿事前調査者に限り、残る7種は、工作物石綿事前調査者と建築物石綿事前調査の資格者のどちらにも認めています。
ここでいう建築物石綿事前調査の資格者は、一般建築物石綿含有建材調査者、特定建築物石綿含有建材調査者、日本アスベスト調査診断協会の継続登録者です。
建築物と工作物で資格が分かれているのは、この告示の区分によるものです。講習で学ぶ内容も、建築物は建築図面と建築設備、工作物は工作物の図面と現場調査と、対象ごとに分かれています。
17種の設備と、調査できる資格の区分は、次のとおりです。

特定工作物以外の工作物は、塗料その他の石綿等が使用されているおそれがある材料の除去等の作業に限り、資格者による事前調査が必要です。この場合も、工作物石綿事前調査者と建築物石綿事前調査の資格者のどちらでも調査できます。
ただし、着工日の書面確認だけで事前調査を終えられる場合など、資格者による調査自体が不要な場合もあります。
調査の全体像は、アスベスト調査の見分け方で解説しています。
建築物の調査を行える人は4つに分かれる
建築物の事前調査を行える人は、3種類の調査者資格の保有者と、一定の要件を満たす日本アスベスト調査診断協会の登録者です。調査できる範囲は次の表のとおりです。
4種類の対象範囲
種類 | 調査できる建築物 | 特徴 |
|---|---|---|
一戸建て等石綿含有建材調査者 | 一戸建て住宅と、共同住宅(長屋を含む)の住戸の専有部分 | 共同住宅のベランダ・廊下などの共用部分と、店舗併用住宅は対象外 |
一般建築物石綿含有建材調査者 | すべての建築物 | 講習と筆記試験 |
特定建築物石綿含有建材調査者 | すべての建築物 | 一般建築物石綿含有建材調査者の講習内容に実地研修と口述試験を追加 |
2023年9月30日以前に日本アスベスト調査診断協会に登録され、事前調査の時点でも引き続き登録されている者 | 建築物の事前調査を行える | 継続して登録されていることが要件 |

建築物の調査を行える4つの種類のうち、調査できる範囲が限られるのは、一戸建て等石綿含有建材調査者だけです。一般建築物石綿含有建材調査者、特定建築物石綿含有建材調査者、日本アスベスト調査診断協会の継続登録者の3つは、どれもすべての建築物を調査できます。
一般建築物石綿含有建材調査者と特定建築物石綿含有建材調査者の違い
一般建築物石綿含有建材調査者と特定建築物石綿含有建材調査者は、どちらもすべての建築物を調査できます。調査できる範囲に違いはありません。
違いは、資格を取るまでの過程です。一般建築物石綿含有建材調査者は、講義11時間と筆記試験で取得します。特定建築物石綿含有建材調査者は、同じ講義と筆記試験に加えて、実地研修と口述試験を修了します。
受講の条件にも違いがあります。特定建築物石綿含有建材調査者の講習は、受講資格に調査の実務経験が求められ、たとえば一般建築物石綿含有建材調査者として2年以上の実務経験がある人などが対象です。
調査できる建築物の範囲は変わりませんが、特定建築物石綿含有建材調査者の方が資格の取得が難しいです。
一戸建て等石綿含有建材調査者の調査範囲
一戸建て等石綿含有建材調査者が調査できるのは、一戸建て住宅と、共同住宅(長屋を含む)の住戸の専有部分です。共同住宅の共用部分と、店舗併用住宅は対象に含まれません。
ここが、マンションの改修工事で見落とされやすいところです。共用の廊下や外壁、屋上等の工事における事前調査を行う場合、一戸建て等石綿含有建材調査者では対応できません。
工作物石綿事前調査者と建築物石綿事前調査の資格の違い
工作物石綿事前調査者とは
工作物石綿事前調査者は、特定工作物のアスベスト事前調査を行うための資格です。工作物石綿事前調査者講習(講義11時間と筆記試験)を修了して取得します。
2026年1月1日以降に着工する工事から、特定工作物の解体・改修工事では、資格者による事前調査が必要です。10種と7種の区分は、次の表のとおりです。
資格と対象の対応表
工作物の資格は、対象によって使える資格が異なります。
対象 | 工作物石綿事前調査者 | 建築物石綿事前調査の資格者(一般建築物石綿含有建材調査者・特定建築物石綿含有建材調査者・日本アスベスト調査診断協会の継続登録者) |
|---|---|---|
反応槽・加熱炉・ボイラー及び圧力容器・配管設備・焼却設備・貯蔵設備・発電設備・変電設備・配電設備・送電設備(10種) | 調査できる | 調査できない |
煙突(建築物に設ける排煙設備等の建築設備を除く)・トンネルの天井板・プラットホームの上家・遮音壁・軽量盛土保護パネル・鉄道の駅の地下式構造部分の壁及び天井板・観光用エレベーターの昇降路の囲い(7種) | 調査できる | 調査できる |
特定工作物以外の工作物(塗料その他の石綿等が使用されているおそれがある材料の除去等の作業) | 調査できる | 調査できる |

上記の表のとおり、特定工作物17種のうち10種は工作物石綿事前調査者だけが調査できます。残る7種は、建築物石綿事前調査の資格者でも調査できます。
ボイラーや配管、変電設備のような設備は、10種に含まれます。ただし、配管設備のうち建築物に設ける給水設備などの建築設備のように、除外される設備もあります。
特定工作物17種の定義や設備ごとの解説は、工作物石綿事前調査者についてで解説しています。
工事の範囲から必要な資格を判断する
工事の範囲は、次の3パターンに分けると判断しやすくなります。
工事の範囲 | 必要な資格 |
|---|---|
特定工作物のみ | 10種を含む場合は工作物石綿事前調査者。7種のみの場合は、工作物石綿事前調査者か、建築物石綿事前調査の資格者 |
特定工作物と、それを設置している建築物 | 10種を含む場合は、工作物石綿事前調査者と建築物石綿事前調査の資格者の両方。7種のみの場合は、建築物石綿事前調査の資格者で足りる場合がある |
建築物(付属設備を含む) | 建築物石綿含有建材調査者等(一般建築物石綿含有建材調査者・特定建築物石綿含有建材調査者・一戸建て等石綿含有建材調査者〔調査できる範囲に限定あり〕・日本アスベスト調査診断協会の継続登録者) |
注意点として、工事の範囲に特定工作物を設置している建築物が含まれる場合は、工作物石綿事前調査者の資格だけでは対応できません。工作物の工事に伴って建築物の改修も行うときは、建築物石綿事前調査の資格者が必要になります。

分かりやすい例が、ボイラーの改修工事です。ボイラー本体はボイラー及び圧力容器にあたり、工作物石綿事前調査者が調査します。しかし、設備設置場所における床、壁、天井などは建築物に該当し、損傷を及ぼす作業がある場合は建築物の資格も必要となります。

資格の組み合わせは、工事の範囲で決まります。工事の対象となる設備は何か、工事の範囲は建物まで含まれるのか、工事内容の詳細を確認のうえお問い合わせいただけると依頼がスムーズに進みます。
石綿作業主任者は調査を担う資格ではない
石綿作業主任者は、アスベストを取り扱う作業の現場で、作業の進め方を決めて作業員を指揮する役割です。調査の資格と混同されがちですが、事前調査を行う資格ではありません。
石綿含有建材を取り扱う作業がある場合、石綿作業主任者の選任が必要になります(労働安全衛生法施行令第6条第23号)。事業者は、石綿作業主任者技能講習を修了した人の中から、石綿作業主任者を選任します(石綿障害予防規則第19条)。
職務は、石綿障害予防規則第20条で3つ決められています。
粉じんを吸い込まないよう、作業の方法を決めて作業員を指揮する
労働者の健康障害を防ぐための装置を、1か月を超えない期間ごとに点検する
作業員が使う保護具の使用状況を監視する

調査者が対応するのは、工事の前にアスベスト建材の有無を調べる場面です。石綿作業主任者が対応するのは、工事の現場で、作業員がアスベストの粉じんにばく露しないように作業を進める場面です。同じ工事でも、対応する場面が違います。
なお、石綿作業主任者技能講習の修了は、建築物石綿含有建材調査者講習と工作物石綿事前調査者講習の受講資格の一つにもなっています。取得を検討している場合は、厚生労働省の石綿総合情報ポータルサイトの講習会情報で、講習を実施している機関をご確認ください。
分析調査を行える人の要件
採取した試料にアスベストが含まれているかを調べる分析調査も対応できる人が決められています。(石綿障害予防規則第3条第6項に基づく告示)
アスベストの分析調査が行えるものは、分析調査者の有資格者、または同等以上の知識技能があると認められる人となっております。
同等以上と認められる人の例として、厚生労働省の資料には、次の資格や認定が挙げられています。代表的なものは次のとおりです。
日本作業環境測定協会の「石綿分析技術評価事業」で、AランクまたはBランクの認定を受けた分析技術者、または定性分析の合格者
日本環境測定分析協会(JEMCA)に登録されている「建材中のアスベスト定性分析技能試験(技術者対象)」の合格者
民間の資格や認定が複数あるため、依頼先の分析担当者がどの要件を満たしているかは、資格名と取得時期を添えて確認しておくと確実です。
この要件は、分析を担当する個人に関するものです。分析を行う機関の精度を確かめるために、第三者機関による精度管理・評価の仕組みとして、別にラウンドロビン試験があります。
ラウンドロビン試験は、同じ試料を複数の分析機関に配り、各機関が分析した結果を比べて、精度を評価する試験です。
アスベスト分析ラウンドロビンテスト委員会が、2025年度から実施しています。2026年の第1回(通算では第2回)では、建材を元の形状のまま分割した4つの試料を配付し、各機関がJIS A 1481-1の方法で分析して結果を報告しました。

第三者機関による精度管理・評価は、法令で義務付けられているわけではありません。しかし、分析機関が、どのように分析の精度を保っているかを確認することが信頼のおける分析機関を探すことにおいて重要な指標になります。
資格者に調査を依頼するときに確認すること
依頼の前に確認するのは、工事の範囲を担当できる資格者がそろっているかどうかです。範囲が建築物だけなら建築物石綿事前調査の資格者、10種の特定工作物を含むなら工作物石綿事前調査者、両方にまたがるなら両方の資格者が必要です。
その工事範囲を担当できる資格者がいる場合自社で調査することが可能ですが、いない場合は調査会社に依頼をしましょう。
依頼の際は、必要な資格者を判断するために、対象の設備、建築物との位置関係、工事の範囲を伝えてください。

調査記録には、調査者の氏名と、資格証の写しを残します。
保存期間は、事前調査の終了した日から3年間です。分析調査を行った場合は、事前調査の終了日と分析調査の終了日のいずれか遅い日から数えます(石綿障害予防規則第3条第7項)。
アスベストの資格に関するよくある質問
一般建築物石綿含有建材調査者と特定建築物石綿含有建材調査者のどちらに頼めばよいですか?
どちらの資格者でも、すべての建築物を調査できます。
違いは資格を取るまでの過程で、特定建築物石綿含有建材調査者は、一般建築物石綿含有建材調査者の講習に加えて実地研修と口述試験を修了しています。調査できる建築物の範囲は変わりませんが、特定建築物石綿含有建材調査者の方が資格の取得が難しいです。
工作物石綿事前調査者と建築物石綿事前調査の資格者は、両方そろえる必要がありますか?
工事の範囲によって変わります。
反応槽や配管設備など10種の特定工作物は、工作物石綿事前調査者でなければ調査できません。それを設置している建物の床や壁にも手を加える工事では、建築物石綿事前調査の資格者も必要になります。7種の特定工作物なら、建築物石綿事前調査の資格者でも調査できます。
わからない場合は対象設備を確認しますので、お問い合わせください。
アスベスト診断士は、いまも調査に使える資格ですか?
2023年9月30日以前に日本アスベスト調査診断協会に登録され、事前調査の時点でも引き続き登録されている方であれば、建築物の事前調査を行えます。
単に「アスベスト診断士」の資格を持っているだけでは、この要件を満たしません。
依頼先の資格が分からないときは、確認の進め方からご相談ください。
石綿作業主任者の資格があれば、事前調査もできますか?
事前調査に資格者が必要な工事では、石綿作業主任者の資格だけでは要件を満たしません。
石綿作業主任者は、作業を行うときに作業方法を決めて労働者を指揮する役割です。事前調査は、建築物石綿含有建材調査者や工作物石綿事前調査者など、調査の資格を持つ人が担当します。
調査から作業の段取りまで通して相談したいときは、まず小田原鉱石にお問い合わせください。
自社に資格者がいない場合は、どうすればよいですか?
資格者のいる調査会社に、事前調査を依頼してください。
工事の範囲(建築物か、特定工作物か、その両方か)を伝えると、必要な資格者を手配できます。図面が手元にない場合も、相談は可能です。
工事の範囲だけでも分かれば、まずはご相談ください。
アスベストの資格を取るには、どうすればよいですか?
建築物石綿含有建材調査者や工作物石綿事前調査者は、登録講習機関の講習を修了して取得します。
講習を実施している機関は、厚生労働省の石綿総合情報ポータルサイトの講習会情報で確認できます。
資格を持つ調査会社への依頼をお考えなら、工事の内容からご相談ください。
まとめ
アスベストの資格は、調査・工事・分析の3つの役割に分かれます。建築物の調査を行える人は4つに分かれ、調査できる範囲が限られるのは、一戸建て等石綿含有建材調査者だけです。一般建築物石綿含有建材調査者と特定建築物石綿含有建材調査者は、全ての建築物に対して調査が可能です。
工作物は、特定工作物17種のうち10種を工作物石綿事前調査者だけが調査でき、残る7種は建築物石綿事前調査の資格者も調査できます。工事が建築物と工作物にまたがるときは、両方の資格者が必要になる場合があります。石綿作業主任者は作業の指揮、分析調査者は試料の分析を担い、どちらも事前調査の代わりにはなりません。
「どの資格者に頼めばよいか分からない」「自社の有資格者で足りるか判断できない」。そのような段階でも、小田原鉱石にご相談ください。図面や工事の範囲が分かる資料があれば、建築物と工作物のどちらにどの資格者が必要かを、一緒に確認します。