
この記事を書いた人

髙橋 淳
(たかはし じゅん)
小田原鉱石株式会社 代表取締役
2015年にアスベスト調査・分析を専門とする小田原鉱石を設立し、代表を務める。行政施設、工場、ホテルなど幅広い建物の調査実績を重ねてきた。関連団体セミナーの登壇経験も多数あり、現場に近い分析会社として日々のアスベスト課題解決に取り組んでいる。
工場やプラントの改修・設備更新を計画する際、対象となる設備が特定工作物に該当するかどうかで、必要な調査資格が変わります。反応槽やボイラー・配管・電気設備など、工場・プラントには多種多様な工作物があり、その一部にはアスベストが使用されている可能性が高い建材が使われています。
設備保全の担当者や工事を発注する担当者に向けて、改修前に押さえておきたいポイントをお伝えします。
この記事でわかること
工場・プラントの改修工事でアスベスト事前調査が問題になる場面
対象になりやすい特定工作物10種の内容と、確認するときの境界
炉・配管・電気設備でアスベスト建材が使われやすい部位
施設管理の担当者が改修前に確認しておきたいこと
プラントのアスベスト事前調査とは、改修や解体の工事前に、対象設備に石綿が使われていないかを確認する調査です。
特定工作物の全体像や資格区分は、工作物石綿事前調査者についてで解説しています。工場・プラントの改修工事では、このうち炉設備や配管、電気設備に関わる工作物を確認することが多くあります。
対象の設備が調査の対象になるかどうか、判断に迷う段階でもまずは小田原鉱石にお問い合わせください。
工場、プラントの改修工事とアスベスト調査
改修・交換・撤去の工事で調査が問題になる場面

工場やプラントでは、設備の更新のほか、生産ラインの変更に伴う配管の交換・電気設備の増設・炉の補修など、さまざまな工事が発生します。これらの工事で解体・改造・補修の対象になる部分に石綿が使用されている可能性がある場合、事前に石綿の使用の有無を調査する義務があります(石綿障害予防規則第3条第1項)。
この義務は建物の新旧や工事の規模にかかわらず生じます。「以前の改修で問題がなかったから今回も大丈夫」とは限りません。過去の改修で交換された部分と、今回の工事で手を加える部分が同じとは限らないためです。
2026年の資格要件と、今回扱う10種の位置づけ

工場・プラントには、多種多様な工作物が使用されています。
そのうち一部は特定工作物と呼ばれ、アスベストが使用されている可能性が高い建材が使われています。2026年1月1日以降に着工する改修工事では、その事前調査に工作物石綿事前調査者の資格が必要です(石綿障害予防規則第3条・厚生労働大臣が定める告示による資格要件)。
詳しくは工作物石綿事前調査者についてで解説しています。
以下のような設備、工作物を改修する際はご注意ください。
特定工作物には17種類の区分があり、そのうち10種類は工作物石綿事前調査者のみが調査を担当できます。
本記事で扱う反応槽・加熱炉・ボイラー及び圧力容器・配管設備・焼却設備・貯蔵設備・発電設備・変電設備・配電設備・送電設備が、この10種類にあたります(残る7種類は建築物石綿含有建材調査者等でも担当できる区分で、工場・プラントでは煙突が該当する場合があります)。
「対象の10種類に入っていないから調査は不要」とは限りません。特定工作物以外の工作物についても、塗料など石綿が使用されているおそれのある材料を除去する作業では、事前調査の対象になる場合があります。
なお、新築工事の着工日が2006年9月1日以降であることを設計図書等の書面で確認できる場合は、この書面確認自体が法令上認められた事前調査の方法にあたり、有資格者による実施が前提とされません。
ただし、業種によっては一部の設備で例外があります。詳しくは後述しますので、ご自身の工事が該当するか不安な場合は小田原鉱石にお問い合わせください。
すべての特定工作物で必ず有資格者による現地調査が発生するわけではなく、着工日を書面で確認できるかどうかによって進め方が変わります。着工日の書面確認が、最初の分かれ道です。
工場、プラントで対象になりやすい特定工作物
特定工作物のうち工場・プラントに関わりが深い10種類を、機能別に3つのグループに分けて説明します。ここで示す区分は本記事での整理のためのもので、法令上の分類名ではありません。
炉設備

反応槽
化学物質の製造を目的に化学反応を行わせる装置です。撹拌槽・固定槽・流動槽等の中で反応を起こさせる形式の反応器で、石油化学やファインケミカルの製造工程などで使用されます。
加熱炉
製造工程で材料を加熱・焼成・溶解・熱処理するための炉本体と付属装置です。重油やガスの燃焼を熱源とする燃焼炉のほか、抵抗炉・誘導炉・アーク炉といった電気を熱源とする電気炉も含みます。
ただし、耐火物で覆われた加熱室を持たないものや、加熱される空間が耐火物・絶縁物で覆われた構造物を持たないものは対象外です。焼却を目的とする設備は次の焼却設備として扱います。
ボイラー及び圧力容器
燃料や電気を使って水を加熱し、蒸気や高温の温水をつくる熱源装置と、労働安全衛生法施行令が定める圧力容器(第一種圧力容器・第二種圧力容器・小型圧力容器等)です。工場・プラントのボイラーだけでなく、ビルや病院、温浴施設に設置されている冷暖房・給湯用のボイラーも対象になります。
ただし、無圧式の温水機など、この区分に該当しない設備もあるため、名称や用途だけで一律に判断しないことが必要です。
焼却設備
廃棄物を燃やして処理する施設で、発電設備を併設するごみ処理施設だけを指すものではありません。発電を行わない工場内の産業廃棄物焼却設備も対象になり得ます。焼却設備には発電設備・ボイラー・配管・煙突など多種多様な工作物が併設されることが多く、煙突はこの区分とは別の設備として扱われます。
配管および貯蔵設備

配管設備
工場やプラントで物質を輸送するための設備です。化学物質やガス、製品を送るプラント配管、炉設備(ボイラー等)と連結して使用される高圧配管、農業用パイプラインなどが対象です。
ただし、建築物に設ける給水設備・排水設備・換気設備・暖房設備・冷房設備・排煙設備等の建築設備と水道管は、この配管設備という区分には含まれません(これらは建築物側の事前調査の枠組みで確認します)。
工場内にある配管であれば一律に対象になるわけではなく、用途によって判断が分かれます。
貯蔵設備
液体や気体、固形物を一定量まとめて保管する設備です。消防法が定める危険物や、高圧ガス保安法が定める高圧ガスを貯蔵する設備が代表例ですが、これらに限定されるものではありません。穀物を貯蔵するための設備は対象外です。
電気設備

発電設備
電力をつくり出す設備のうち、事業用電気工作物に該当するものです。工場やビルに設置されている非常用発電機も対象になり得ますが、携帯用の発電機など事業用電気工作物に該当しないものは含まれません。太陽光発電設備・風力発電設備は対象外です。
変電設備
電圧を変える事業用電気工作物です。工場やビルに設置される高圧受変電設備(キュービクル)も対象に含まれます。マンションの共用部に設置されているキュービクルと同じ区分にあたり、「建築物の調査資格を持っていれば十分」と思われがちですが、建築物石綿含有建材調査者等の資格だけでは調査を担当できません。
配電設備
電気を使用場所へ配るための設備です。電力会社から家庭・工場へ供給する配電線や柱上変圧器のほか、工場・プラント内部で使用される自家用電気工作物としての構内配電(分電盤や設備間の配電等)も対象になり得ます。
送電設備
発電所から変電所へ、または変電所同士の間で高電圧の電気を送るための設備で、ケーブルを含みます。送電鉄塔や架空電線、地中送電ケーブルが代表例ですが、工場内にあるケーブルすべてが送電設備に該当するわけではなく、系統上の機能によって配電設備との境界が変わります。
ケーブルラックについては、ラック本体(金属部分)と、ケーブルの被覆材・延焼防止材・貫通部の耐火仕切板やシール材は別に確認が必要です。特に防火区画の貫通部は建築物側の調査区分になる場合があるため、工作物の資格だけで調査できると案内しないことが重要です。
工場、プラントにおけるアスベスト建材の使用例
設備と確認したい部位の対応
工場・プラントの設備でアスベスト含有建材が使われやすい部位を、設備カテゴリ別に整理しました。掲載している組み合わせは代表的なものであり、これ以外の部位で調査が必要になる場合もあります。
設備カテゴリ | 確認したい部位 | 建材・材料の候補 |
|---|---|---|
加熱炉・焼却設備 | 炉壁の内部、炉殻に近い層 | 断熱・保温用の板材等 |
炉・ボイラー | 点検口、扉、接続部 | 耐熱シール材、ガスケット |
ボイラー・圧力容器 | 胴部・外周 | 保温材 |
反応槽 | 胴部・スカート部、マンホール周辺 | 保温材、ガスケット |
配管設備 | 直管、曲がり部、分岐、弁周辺 | 保温材 |
配管設備 | フランジ接合部 | ガスケット、ジョイントシート |
配管・機器 | 弁軸・ポンプ軸等のシール部 | グランドパッキン |
貯蔵設備 | 外周、接続部、点検口 | 保温材、シール材(設備の仕様に応じて確認) |
発電・変電・配電設備 | 機器内部、盤内 | 電気絶縁材等 |
電気設備 | ケーブル表面・引込開口部 | 延焼防止塗料、耐火仕切板、耐熱シール材 |

「新しく張り替えたから大丈夫」と思われがちですが、炉の耐火物は表面だけで判断できません。炉殻に近い層に耐火目的で石綿が使われている場合があり、表面の張り替えと内部の層の更新が一致しているとは限らないためです。配管接合部のガスケットやパッキンについても、同じ考え方があてはまります。
配管系統と接合部で確認したいこと

「曲がり部分さえ確認すれば十分」と思われがちですが、配管の保温材は直管部分にも石綿が使用されている可能性があります。施工区間や補修履歴もあわせて確認することが欠かせません。

同じ配管系統でも、部位によって保温材の種類が異なることがあります。施工時期や補修の履歴によって使われている資材が変わるためです。
フランジ接合部についても、フランジごとに確認が必要になる場合があります。フランジごとに交換時期や使用条件が異なり、隣接する接合部の結果をそのまま別の箇所に当てはめられないためです。
どの範囲をまとめて調査し、どの部位で個別に確認するかは、調査を担当する有資格者が記録と現地の状態から判断します。
2006年9月以降の設備でも一律に判定しない理由
新築工事の着工日が2006年9月1日以降であることを設計図書等の書面で確認できれば、その確認をもって事前調査を終了できる場合があります(石綿障害予防規則第3条第3項第3号)。ただし、「2006年9月以降に着工したから石綿はないはず」とは限りません。
非鉄金属製造業・鉄鋼業・化学工業の設備では、配管の接合部に使われるガスケットやグランドパッキンについて、設置日を別途確認する必要がある場合があります(同条第3項第4号・第5号・第7号・第8号)。
これらの業種のガスケット・グランドパッキンは、石綿の使用等の禁止が2006年9月1日より遅れて適用されたためです。着工日が2006年9月1日以降であっても、次の基準日以降に設置されたことを確認できなければ石綿を含まないと判断できません。
非鉄金属製造業のガスケット:2007年10月1日以降
鉄鋼業のガスケット・グランドパッキン:2009年4月1日以降
化学工業のグランドパッキン:2011年3月1日以降
化学工業のガスケット:2012年3月1日以降
化学工業のガスケットだけを見ても、一般原則の2006年9月1日から2012年3月1日までの5年半、禁止の適用が遅れています。設備の設置年だけでなく、保温材の施工年やガスケット・グランドパッキン等の設置日・交換履歴を業種に応じて分けて確認することをおすすめします。

調査結果は、設備番号や配置図上の位置と結び付けて記録しておくと、工事の発注や施工管理に活用しやすくなります。
施設管理の担当者が確認しておきたいこと
定期修繕の予定から逆算した準備

工場・プラントでは、定期修繕(シャットダウン)のタイミングに合わせて設備の点検・更新を行うことが多くあります。
事前調査は、資料の確認、設備を停止しないと確認できない箇所の現地確認、必要に応じた分析という順序で進みます。定期修繕の日程が決まってから慌てて着手すると、対策や工事の手配が間に合わないことがあります。
「日程が固まってから動けばいい」というわけにはいきません。定期修繕の計画が立った段階で、対象設備の資料確認から早めに始めることをおすすめします。
図面がない場合やメーカーが分からない場合

古い設備では、竣工図や納入仕様書が残っていないことがあります。設備の銘板に記載された型式や製造年、過去の修繕記録、施工を担当した業者への確認を組み合わせることで、調査の手がかりを補えます。図面がなくても、手がかりはあります。
「メーカーに聞けば全部わかるはず」とは限りません。メーカーへ問い合わせる場合は、回答の対象範囲に注意が必要です。メーカーが把握しているのは出荷時点の設備本体についてであることが多く、現地で施工された配管の保温材や、後年に交換された部品については、メーカーの回答だけでは判断できない場合があります。
工事に関わる複数の担当者での情報共有

工場・プラントの改修工事には発注者である設備管理者、元請の施工業者、専門工事を担当する下請業者など、複数の担当者が関わることが一般的です。
資料の提供、調査範囲の確定、調査結果の受け取り、現場での周知は担当を事前に決めておきましょう。
複数の工事が同時に進む場合は、共通の設備番号や範囲図、最新の調査結果を関係者で共有し、工事範囲が変わった際の再確認先も決めておくと安心です。
稼働中の設備や、扉の中など確認できなかった箇所については、未調査の部位として記録に残しておく必要があります。目視で確認できなかった材料は、後日確認できる状態になった時点で調査する必要がありますが、単に工程の都合を理由に確認を先送りしてよいわけではありません。
定期的な環境測定という選択肢

吹付材や保温材など飛散性の高いアスベスト建材をそのまま使用し続けると、劣化や損傷によって石綿の繊維が飛散し、吸入するおそれがあります。従業員の健康を守るためには、事前調査に加えて、定期的な環境測定によって空気中への飛散がないかを確認する方法があります。
建材にアスベストが含まれているかどうかを確認する事前調査と、空気中の濃度を確認する環境測定は、別の情報を得るための調査です。「環境測定で問題がなければ安心」というわけではなく、建材にアスベストが含まれていないことや、将来にわたって安全であることまで保証するものではありません。
まずは自社が管理する設備にアスベスト含有建材が使われているかどうかを把握したうえで、劣化の状況に応じて撤去や測定の要否を検討することをおすすめします。
まとめ
工場・プラントの改修工事では、反応槽や配管、電気設備など、多種多様な特定工作物がアスベスト事前調査の対象になり得ます。2026年1月1日以降に着工する工事からは、このうち10種類について工作物石綿事前調査者による調査が必要です。
「設置年さえわかれば十分」とは限りません。保温材やガスケットの交換履歴もあわせて確認することが欠かせません。
小田原鉱石では、工場・プラントの改修・設備更新に伴うアスベストの事前調査・分析について、ご相談を承っています。対象設備の種類や工事範囲、図面や過去の調査記録の有無をお知らせいただければ、必要な調査の進め方をご案内します。
定期修繕の日程が決まっている場合は、その時期もあわせてお知らせください。まずはお気軽にご相談ください。